2022年○月X日、とある弁護士事務所から、手紙が届く。
そこからすべては、始まった。
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Netflixの「地面師たち」を観た。
あまりに面白かったので、現在進行形で私自身がたずさわっている「不動産売買」の話を書こうと思う。
もちろん、私は地面師でも、詐欺師でもない。
そしてこの話は「地面師たち」よりずっと地味で、小規模で、エンタメ性もないしょぼい実家の不動産売却の話である。
そして、まだ不動産の買い手は決まっていない。
現在進行形、リアルタイムで交渉中の事故物件の実家売却話なのだ。
Netflix「地面師たち」を観て、実家を早く売りたいと思う
タイトルにもあるとおり、私が売りたい不動産は「事故物件の実家」だ。
なぜ、事故物件かは後で説明するとして、Netflixの「地面師たち」と観終えて、つくづく、
「早く、あの実家を手放したい」
と思った。
なんなら、実際に地面師的な詐欺師が、あの実家を犯罪に利用しないかとひやひやする。
そんなに好物件でもないし、好立地でもないから、それはないと思うが・・・。
ただ、「地面師たち」の元となった「積水ハウス地面師詐欺事件」を思うと、他人事とも思えない。
詐欺でも何でも無く、あの土地、はやく買い手を探したい。
地面師たち (集英社文庫)
すべては、弁護士の手紙から始まった
すべては、弁護士の手紙から始まった。
2022年のはじめに、弁護士名義で私に届いたのは、「不在者財産管理人選任」の通知だった。
その内容を要約すると、以下の通りになる。
不動産の名義は母になっていた。
母は「存否も不明」であり、母名義の不動産は管理者もいないため、家庭裁判所が弁護士を財産管理する者(不在者財産管理人)にA弁護士を選任した。
調査するなかで、あなたがお子様であることを把握した。
不動産に関することで質問があるので、A弁護士事務所まで連絡がほしい。
・・・とまあ、簡単に言えば「不動産の相続どうなっているの?」という内容の手紙である。
私には弟がいる。
すぐに弟に、同様の手紙が弁護士から届いたかと確認したが、届いていないと言う。
「なんで、私だけに・・・」
という不満もあって、しばらく放置した。
矢継ぎ早というほどでもないが、ほどなくして同じ内容の手紙が、再度届いた。
実家の不動産に関するごたごたは、正直45年にわたって続いており、ある時はワッと話が進んだり、またある時は数年間沈黙したりと、その繰り返しであった。
本来なら、相続権は子である私と弟にある。
ちなみに、母が不動産を取得した時、父はすでに故人(40歳で死去)だった。
なので、第1順位の法定相続人というのは私と弟しかいないのだが・・・・
伯父の死
弁護士からの手紙が届く少し前に、伯父の死があった。
この伯父こそ、長年、
「相続権は俺にある!」
と主張し続け、相続を「骨肉の争い」にした張本人であった。
そして、その影にいた妻である伯母。私は長年、伯母に非はないと思い、伯母の言う通りにしていたが、今になって思うとこの伯母こそ「地面師」のような人だ。
伯母は母の実の妹。
母が不動産を買う時に、住宅ローンの保証人となったのはこの母の妹の夫、つまり「相続権は俺にある」と主張を続けていた伯父である。
実は、伯父の身内には、某信用金庫の理事がいた。
母が住宅ローンを組んだのも、この信用金庫だった。
若くして夫を亡くした未亡人の母が、住宅ローンを組めたのは、
「理事の親戚の者が保証人になったから」
でもあった。
詳細は後述するが、その住宅ローンの保証人だった伯父が長年、
「義姉さんが死んだなら、この家と土地は俺のものだろう」
と主張。
妻である伯母(母の妹)は、
「だったら、姉が不動産取得時に払った、頭金800万円はまず、現金で私ら一族に出してもらわないと」
と主張。
伯父はそれを「義姉さんの保証人になったばかりに、不利益をこうむったから、800万円はその慰謝料だ」という理由で拒み、伯父と伯母の夫婦仲は悪化。伯母は伯父と別居し離婚を望んだが、嫌がらせなのか、なんなのか、伯父は離婚を断固拒否。
そのまま40年、伯父は私の実家に住み、伯母は市内の別の場所に暮らしていた。
その伯父が亡くなったと連絡があったのが、弁護士の手紙を受け取る少し前だった。
これであの実家を処分できる、と思った。
伯母よ、お前は地面師か
かれこれ30年くらい前だろうか、なんとか実家を処分なり、相続なりしたいと、私と伯父が一対一で話し合ったことがある。
なんなら、伯父が望むとおりに、伯父に相続してもらってもいいと思った。
その時に伯父が繰り返し言っていたのが、
「あいつ(伯母のこと)はとんでもないぞ、数年前に、勝手にあの家を売ろうとしたんだからな。買い手を見つけて来て、1000万円で話をつけて、あやうく売却するところだったんだぞ」
まさに、地面師なみの伯母の行動である。所有権も不動産登記もない家を、勝手に売ろうとしていたなんて、今、多少、知識がついた私から見たら「詐欺」に近い。
伯母は今でも、
「あの時売っていれば、1000万円で売れたのに」
と、悔しそうに言う。
最初に伯父からその話を聞いた時の私は、不動産や相続の知識もなく、
「ふーん、そうなんだ」
くらいにしか思わなかった。
別居している伯母が売ろうとしたけど、伯父から横やりが入って売却話が「無し」になった。伯母としては1000万円を手に入れて、
「もうこの家、〇〇さんの名義になったから、あなた(伯父)は出て行って」
という結末を目指したのかもしれない。
今になって私がわかるのは、そもそも「相続登記」もしていない、母(伯母にとっては姉)の名義のままの不動産を、伯母が勝手に売ることはできない。
それこそ、地面師なみに偽造の書類や身分証を作るか、母の名を語って「自分が土地の名義人だ」と「なりすまし」でもしない限り、不動産は売れないだろう。
母と伯母は姉妹だから、見た目が似ているかもしれないが、それにしたってすでに死んだ人間になりすまして、不動産を売却することはできないだろう。
伯母はその辺はよくわかっていないらしく(私も、だが)、未だに「1000万円で売れたのに」と言い続け、取らぬ狸の皮算用を続けている。
本人に悪意はなく(と、思いたい)、1000万円があれば、あれやこれやの借金返済ができ、幼くして相次いで父と母を亡くした、哀れな私や弟にも、いくばくかのものが渡せるじゃないか、というのが売ろうとした理由だと言う。
半分本当で、半分嘘かな。
実は母が亡くなった時に、生命保険が500万円ばかり出たが、
「これは後見人として、私が管理して、あなた達が成人した時に渡す」
と伯母から言われた。
さて、私や弟が成人した時には、その金は一円も残っていなかった。
「姉に代わって、あなた達を育てたから、それに使った」
というのが伯母の理由だった。
私や弟の生活費や養育時は、父・母の親戚同士が話し合って、皆で各自分担して面倒見ようということで、毎月送金されてきた。父も、母も兄弟が多かったので、毎月の送金だけで合計5~6万あった。さらにサラリーマンだった父の厚生年金からは「遺族年金」も出た。なんだかんだで、月額10万円くらいは私と弟の生活費があった。
その上、さらに何が必要だったのか?成人するまで何十年もかかったわけではない、私で8年、弟は10年だ。その間に、母の生命保険金500万はすべて消滅していた。