読書感想文|大槻ケンヂ「リンダリンダラバーソール」

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 大槻ケンヂさんの本「リンダリンダラバーソール」を読んだので、読書感想文を書きます。

 「リンダリンダラバーソール」は、1980年代後半から1990年代前半の「バンドブーム」をベースに、バンド「筋肉少女帯」のデビューとそれを取り巻く当時のマイナーからメジャー、アングラまでの様々なバンドのエピソードを詰め込んだ青春物語です。


リンダリンダラバーソール (新潮文庫)


目次

「リンダリンダラバーソール」の読書感想文

 私の記憶が確かなら、1990年の夏にエムザ有明で開催された「イカ天バンドライブ」には、TBSテレビで放送された「いかすバンド天国」で名を馳せた池田貴族率いるremoteや、人間椅子、THE NEWSなど、数々のバンドが出演した。

 私のお目当てはトリで出てくるFLYING KIDSのボーカル浜崎さん。

 初めて「いかすバンド天国」で見たときから、浜崎さんのファンになった。

 ライブがあると知って、チケット買えるかな、買いたいな、でも行けるかな?エムザ有明は電車では行きづらいよな・・・と思っていた。まだ、お台場にゆりかもめ線が開通する前のことなので、エムザ有明に行くには車が必要だったのだ。

「エムザ有明のイカ天のライブ、よかったら行かない?チケット余ってるんだけど」
 そんな私に、会社の先輩女性から奇跡のお誘いがあった。

 先輩女性と、もうひとり、同じ会社の先輩男性と、あと先輩男性の知人2名の合計4でいく予定だったが、なんでも一人、行けなくなった人がいるので、空きが出たという。車は先輩男性の知人が出してくれるので、足の心配もないと。

 私は二つ返事でOKし、ライブへ行った。

 あんなに憧れて、実物に会いたくてたまらなかったFLYING KIDSの浜崎さんが、肉眼で見られるなんて・・・と、おおいに興奮したはずのライブだったが、あれから30年たった今、記憶はほとんどない。

 ライブは後日、CDに収録されて発売された。
 私を誘ってくれた先輩女性は、そのCDを自腹で買った上、カセットテープにダビンクしてプレゼントしてくれた。

 「MZA有明 イカ天 ライブ」で検索すると、今も転売されているCDがネット上にいくつも見つかるけど、私はもうカセットテープも無くしてしまった。

 バンドブームて、何だったんだろう。

 会場となったエムザ有明は、その後格闘技イベントなどを開催する「ディファ有明」にリニューアルし、2018年に営業を終了。

 ディファ有明の跡地が更地になったというツイートが話題になった。

 バンドや、ディスコや、格闘技イベントや・・・それらの様々な思い出も更地になって、遠い昔となった。

 「リンダリンダラバーソール」はそんな90年代はじめの「バンドブーム」の頃の話から始まる。
 実在したバンドやミュージシャンの名前が、「*」印の注釈付きで語られる。大槻さんは、自他ともに認める読書家であることがよくわかる。漱石や鴎外のような「*注釈」付きの文学作品を沢山読んできた人に違いない。同じ手法を「90年代はじめのバンドブーム」を語る文体に転用している。

 「ばちかぶり」「木魚」「たま」「有頂天」「ロシアバレエ団」「人生」など、なつかしいバンド名に「*注釈」がついており、文末に解説がある。

 それらの実在したバンド名を見て、てっきりノンフィクションの回顧録かと思いきや、途中からストーリー性が出てきて、僕(大槻ケンヂ)と「空に届くほどに高いラバーソールを履いた可愛いコ」コマコ、の物語になっている。

 ちなみにラバーソールの「コマコ」は川端康成の「雪国」の駒子から命名されたと思われ、大槻ケンヂの元の芸名「大槻モヨコ」は夢野久作「ドグラ・マグラ」の「呉モヨ子」からとったと明記してある。
 元・白夜書房の末井昭から、ノーベル文学賞の川端康成まで、そこかしこに引用文献が登場するのも興味深い。

 文庫版のあとがきには「青春物語を書きたいとの意志がそもそも先にあって作られた小説だ」とある。

「小説だったのか?」
 と軽く驚きながらも、「*」の注釈に書かれている当時のバンドや出来事は、実話だから、田中康夫の「なんとなくクリスタル」みたいに、あえて注釈を沢山つける文章にしたのだろうと思う。

 更地になったエムザ有明。
 もう、この世にはいないリモートの池田貴族や、ロシアバレエ団の中尊寺ゆつこ。
 誰も履かなくなったラバーソール。

 悲しいかな私も、その当時の音楽ももう、あまり聴いていない。

 サブスクリプションの音楽アプリで、久々にFLYING KIDSを聴いた。でも、時代と、ズレているからだろうか、残念ながら「なつかしい」という感情しか、わいてこない。

 多くの人、ほとんどの人が去っていった90年代バンドブーム。つい最近、カブキロックスの氏神一番が何度も詐欺にあって、数千万円をだまし取られていたという話が紹介されていた。ピエール瀧にしろ、氏神一番にしろ、当時のバンドブーム関係者のいい話は、このごろ聞かない。

 だからこそ、大きなトラブルもなく、今でも現役でバンドが継続できている大槻ケンヂは、やはり特異な存在なのだろう。

 当時を知る貴重な存在というだけでなく、類まれなる多才(作詞作曲に加え文才も!)によって、90年代バンドブームの語りべとしてもうってつけの人。

 どうかこれからも、大槻ケンヂよ、あなただけは永遠に現役バンドマンでいてください。

リンダリンダとは

 「リンダリンダ」とは、1987年リリースのザ・ブルーハーツのメジャーデビュー曲。

 本の中ではコマコによって、
「ヒロトが彼女に捧げた歌だって噂よ」
 と語られる。

ラバーソールとは

 「ラバーソール」自体は、直訳すると「ゴム底靴」ということになるが、ここで言う「ラバーソール」とは、90年代バンドブームの頃に流行った「厚底ブーツ」や「厚底靴」のこと。

 私は履いたことない。

 その後、1995年に「アムラーファッション」として、若い女性を対象に爆発的人気ファッションアイテムとなったが、ここで言う「ラバーソール」はまだその前の「ロックの定番」だった頃の厚底靴のこと。

 「リンダリンダラバーソール」の注釈によると、
「1906年のロンドン郊外で設立されたGeorge Cox社が代表的なブランド」
 とのこと。

 ちなみに、「リンダリンダラバーソール」とよく似たタイトルの小説に「ソウルミュージックラバーズオンリー」がある。これは作家・山田詠美の直木賞受賞。似てないか?


ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー (幻冬舎文庫)
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