テレビを観ていたら「ガス給湯器の詐欺」に関するニュースが放送されていた。
これは危険だから、すぐ交換したほうがいいとガス給湯器を交換。
とんでもない高額な請求書が届く・・・という内容だった。
それで、数年前にあった、嫌な出来事を思い出した。
私も似たような詐欺にあったのだ。
怪しい「工事のお知らせ」訪問に注意
それは2020年ころだったと思う。
世の中が「コロナ禍」に突入し、ステイアットホームとか、在宅ワークとか、休校とかで、外出がぐっと減った時期だ。
ある日、玄関のチャイムが鳴った。
インターフォンで「はい」と応えると、
「大事なお話があるんで、ちょっと、玄関先まで出てきてもらえますか?」
と言われた。
この時点で、何か・・・変だな、と感じた。
うちは分譲マンションで、かれこれ四半世紀近く住んでいるが、過去にそんな訪問者、一人もいなかったもの。
インターフォンの画像に写っているのは作業着姿の、金髪の若者だった。外国人ということではなく、どう観てもアジア人だが、髪が金髪ということ。
顔は、大きな黒いマスクで、ほぼ見えていないに等しかった。
コロナ禍でもあったし、なんだか怪しい見た目でもあり、わざわざ玄関に出ていくのは正直「怖いし、嫌だな」と思った。
ドアを少し開けると、
「わたしガス工事の者です。上の階で来週の火曜日、ガスの工事をします。掲示板には明日くらいに告知されると思います。工事の音などでご迷惑になるかもしれませんが、よろしくお願いします」
金髪青年はそう言いながら、こちらの年齢や、能力をうかがっている・・・と私は感じた。
手短に対応して、すぐにドアを閉めた。
明らかに、値踏みするような、ジロジロした目つき。絶対怪しい、と思った。
うちのマンションは、工事がある時は共同玄関の掲示板に告知が貼り出される。
金髪青年がわざわざ「掲示板には明日くらいに・・・」と言ったことも、引っかかった。わざわざそんなこと、なぜ言うのか?
それに、話の内容が「玄関先まで出てきて」わざわざ聞くようなものではない。インターフォンで伝えれば十分なはずなのに、なぜ「出てきて」と言ったのか?
その日から気になって、毎日掲示板を確認するようになった。
ガス工事の告知なんていっこうに貼り出されない。
ますます、怪しいと思った。
そして金髪青年が言った「来週の火曜日」がやってきた。
私は元々在宅ワークの人なので、ほぼ24時間自宅にいる。その日は朝から耳をすませていたが、工事音など聞こえてこなかった。
気になったので上の階まで何度か、直接見に行った。
工事など、どこの部屋でもやっていなかった。
インターフォンに写った金髪青年の画像は、スマホのカメラに転送して、今も保存している。
明らかに怪しい人物だったので、最初から私は「何かの詐欺では?」と疑っていた。
本当の詐欺師はニコニコして、愛想がよく、人懐っこい
それから1年くらい経ったある日のことである。
インターフォンが鳴って、出ると「あー、あの・・・ガス工事のことでご連絡が・・・」と言われた。
「これは・・・・また、同じような・・・」
と思った。
今となって私が反省するのは、自分の「好奇心」と、「悪いやつかどうか、今度は見極めやろう」という正義感だ。
相手にせずに、そのまま前回のように手短に応対すればよかったのだが、つい、何かもっと探ってみたくなった私は、玄関に出て、相手と対面した。
やはり若者だった。
やはり作業着、ニッカボッカスタイルだった。
余談だが私の父も塗装業者で、一年中作業着姿だったので、作業着の人に差別的な感情があるわけではないことを言っておく。
日焼けして、セミロングの髪にゆるいウェーブとメッシュ、白い歯が眩しい若者。20代後半から30歳くらいか。
笑顔で、低姿勢で、
「わたしガス工事の者です。上の階で来週、ガスの工事をしますんで、騒音とか出るのでお知らせにうかがいました」
それは1年前、金髪青年が言ったセリフとほぼ同じ内容だった。
ただその時と大きく違うのは、その若者が「好青年」に見えたことだ。

前回の金髪青年はボソボソ喋る感じで、こちらをジロジロ見る目つきも不気味だったし、何より「ちょっと、玄関先まで出てきてもらえますか?」という言い方が、切羽詰まった感じで、明らかに怪しかった。
今回のセミロング青年は、ニコニコして、物腰が柔らかく、愛想もいい。
前の金髪青年が前座で、真打ち登場という感じ。
「玄関先まで出てきて」などとも言わなかったのに、私は自ら玄関先まで行ったのだった。
自分でも不思議だが、私は気づくとセミロング青年にこんな言葉を投げかけていた。
「ねえ、私、1年くらい前、まったく同じセリフを聞いたのよ。この上の階でガスの工事をするって。でも、実際に工事はなかった。たぶん嘘だと思うの。これ、どう思います?」
面食らう・・・とは正に、あんな顔だろう。
セミロング青年は、私の言動に「え?」とか「うーん・・・・」とか、当たり障りのない返答だったが、明らかに面食らって動揺していた。
しかしさすがに真打ち。気づくと私はセミロング青年のたくみな話術に丸め込まれていた。
それから小一時間、私はセミロング青年と語り合った。
1年前に奇妙で怪しい金髪青年が訪ねてきたこと。工事の話は嘘だったこと。うちの給湯器は古いこと。そのせいなのか、「近所で給湯器交換するけど、お宅でも一緒にどうですか」という話が何度もあること。給湯器はそろそろ、私も新しくしたいと思っていること・・・・。
気づけば私は、1時間以上もベラベラと、セミロング青年と会話していた。
「そうですねえ(ニコッ)」
「わかります、わかります(うなづく)」
「あーー、なるほど、そうなんですね(深くうなづく)」
今思えば、セミロング青年の受け答えは、売れっ子ホストなみに上手かった。
「じゃあちょっと、給湯器、見せてもらっていいですか?はーい、なるほど、はいはい、そうですね、古いですね。いつ壊れも、不思議じゃないかと。わかります、わかります。工事費ねえ、決してやすい代金じゃなですもんねえ・・・・」
気付いた時には、新しい給湯器に交換する契約書にサインしていた私
今思い出しても、「恐るべしトークスキル」と思う。
なんだかんだで、冬の夕方の吹きさらしのマンションの廊下で、私はセミロング青年と2時間以上会話していた。
そして気付いた時には、新しい給湯器に交換する書類に、記入していたのだ。
「ご存知ですか?今、半導体が不足している影響で、給湯器本体もなかなか入手困難なんですよ」
という口車に、まんまと乗せられていたのだ。
「ただ、うちの会社は今、若干の給湯器の在庫があります。上の階の工事と合わせて、お宅の分も給湯器を押さえておくように、今、営業の者に連絡します」
そしてセミロング青年は、遅くとも来月半ばまでに新しい給湯に交換する工事ができると言った。
たしかこの時、1月の末だった。
セミロング青年の話では、来週、営業の担当者から工事日程の連絡が電話であると思う。その時に詳しい日程を決めて欲しい。遅くとも2月上旬までには、給湯器が交換できると思う、ということだった。
給湯器の交換工事の値段は、一般的な18万円とか、19万円とかいう額だった。
私は契約書に住所、氏名、電話番号などの個人情報を記入し、セミロング青年に渡した。
「ねえ、こんな寒い時期に急に、給湯器が故障してお湯が出なくなったら、最悪ですよね。僕も早く交換して、安心して使ってもらいたいです」
セミロング青年は始終笑顔で、一日も早い工事を約束してくれた。
待てど暮らせど、工事は始まらず、私は消費者センターに電話した
セミロング青年に契約書を渡してから1週間後、工事日程を確認する電話がかかってきた。
契約書を書いた時、セミロング青年は、
「当社の営業担当者から、工事日程を確認する電話が入ると思います」
と言った。
しかし、実際電話をかけてきたのは、セミロング青年本人だった。
契約書にプリントされている会社名と住所をネットで検索すると、リフォーム会社のホームペジが出てきた。
怪しい感じはなかったけど、営業担当者などいなくて、セミロング青年が一人で全部やっている感じがして、なんだか違和感があった。
電話で工事の日を「2月◯日頃」と決定した。
細かい工事の時間は、工事の日の数日前になったら、改めて連絡するとのことだった。
ところが、である。
決まった2月◯日が近づいても、何の連絡もなかった。
さらに、その日が過ぎ、数日が経過しても、連絡がない。
この時点で代金の支払いなどはまだなかったので、呑気にかまえていた私。
しかし、工事日程から1週間以上が経過しても、何の連絡もなかったことから、
「やっぱり怪しかった!今更、もう信用できない」
と思った。
それより何より、最初にセミロング青年が言っていた「上の階の工事」というのが、やっぱり嘘だったのだ。
この点は1年前の「金髪青年」と全く同じだった。マンション掲示板での告知もなく、工事している様子もない。
どうしたものか。契約書にはサインしてしまった。
そこで私は、消費者センターに電話した。
消費者センターに電話なんて、人生初である。
消費者センターの担当者の話では、そもそも契約した時に「虚偽の申告」があった場合、契約は全部破棄できるとのことだった。
もし相手方がなにか言ってきたら、消費者センターの名前と、担当者の名前を出していいとのことだった。
私は、契約書にプリントされたリフォーム会社の電話番号に電話した。
電話に出たのは女性だった。
工事日程が守られないこと。消費者センターに連絡したこと。そもそも「上の階の工事」が嘘だったこと。これらを伝えて、契約時に虚偽の申告があったから契約を破棄したいと伝えた。
電話の女性は「契約から8日以上経過しているからクーリングオフできない」と言い出した。
これはもう、明らかに詐欺まがいだったと思って、私は強い口調で、
「何度も言いますが、そもそも契約時に虚偽の申告があったのだから、契約は成立しません。出るとこに出てもいいし、警察に通報しますよ。消費者センターの担当の方も、解約できなかった時は相談に乗ると言っています」
と伝えた。
相手は折れ、解約に応じた。
結局、工事もまだ、代金支払もまだ、だったことから、大きな被害には合わなかった。
ただ、契約書に個人情報を記入して渡していることが不安が残る。
「キンライサー」にお願いして、即解決
それから私は、マンション内をリサーチした。
実はこれ以外にも、ちょくちょく「給湯器、交換工事しませんか」というセールが来ていた。
そこでマンション内の廊下を回って、各部屋の給湯器をチェックしてみた。
見るとわかるが、ほとんどの給湯器には「2015年製」とか「2020年製」など、製造年の表記があり、いつ頃交換したのかがわかる。
「1999年製」なんていう、前世紀の給湯器を使っている家庭は、うちと、あともう1件のみだった。
そりゃあ次々「給湯器、交換しませんか」という営業が来るはずだ。
この給湯器の古さが、諸悪の根源だった。
「でもまだ、問題なく使えているしなあ」
とは思ったものの、いつ壊れても不思議ではない。
一般的な給湯器の耐用年数は10年と言われている。
私は早速、ネットで「ガス給湯器 交換」と検索して「キンライサー」に工事依頼の申し込みをした。
連絡はすぐ来て、工事日は1週間後に決定。
工事は予定日に終了し、即、新しい給湯器になった。
あれから数年、つくづく、変な給湯器の工事会社と解約できて良かったと思う。
大手の給湯器工事会社は、迅速で、正確。
そして給湯器が新しくなったことで、変な営業が来ることもなくなった。
もちろんお湯の出や、おフロの調子もいい。
幸か不幸か、工事が約束通りに行われなかったことから、怪しい会社とは解約できた。
あのまま工事されて、代金が請求されたら、どんな事になっていたかと思う。
少しでも「怪しい」と思ったら、まずは消費者センターに相談することをおすすめしたい。
