読書感想文|林真理子『なわとび千夜一夜』

 林真理子さんのエッセイ「なわとび千夜一夜」を読んだので、読書感想文を書きます。

 雑誌「週刊文春」で、林真理子さんが長年連載されているエッセイ「今夜も思い出し笑い」「夜ふけのなわとび」(途中からタイトルが変わりました)のをまとめた文庫化第20弾です。
 今回の最終章には、連載が千回を迎え、ホテルで記念のパーティーが開かれたことも記載されています。




林真理子「なわとび千夜一夜」の読書感想文

 世の中には沢山、昔懐かしいセピア色の写真というのが存在する。
 近所の商店街の昭和40年代を撮影した白黒写真や、母校が設立された当時の明治、大正時代の古い写真など。

 まるで、そんな昔の白黒写真を眺めるような気持ちで、林真理子さんの「なわとび千夜一夜」を読んだ。

 巻末に週刊文春「初出/2005年12月1日号~2006年12月14日号」とあるから、今から15年前のエッセイである。その当時の、目で見た世の中ではなく、心で感じた世の中の動きを、セピア色の写真を見るような気持ちで、林真理子というフィルターを通して再確認するのがこの本だ。

 林真理子さんの小説やフィクションも沢山読んだけど、やっぱり私はこの、文春のエッセイが好き。私は高校生の頃から、林真理子のエッセイ読みたさに、毎週、おこづかいで週刊文春を買っていたほどなので、足掛け30年以上にわたるこのエッセイの大ファンなのだ。

 当時は、糸井重里さんがコピーライティングを指南する「萬流コピー塾」という連載も同時にあって、林さんと糸井さん、コピーライターとしてのお二方に、田舎娘の私は強い憧れをいだき、貪るように連載を読んでいたものだ。

 風景をパシャリと写真に収めるように、林さんは時代のある瞬間を切り取って、エッセイというかたちの「心の風景写真」に収めるのが上手い。

 上手いがそれは、その時、その瞬間に読めば、なるほど、と感心するが、時が経つとセピア色になる。流行の出来事を意識的にエッセイ取り上げているだけに、色褪せるのも早い。この本にも、2006年当時、世間を騒がせた事件の容疑者の名前などが出てくるけど、2021年の今、その名前を見て、
「え?この人の事件て何だったっけ?」
 と思い出せない。

 名前を検索して、ようやく「ああ、あの事件ね。あったあった」と思い出したけど、かなりセピア色の記憶である。

 私があえて、今、そんな15年前のセピア色のエッセイを読んでいるのは、他でもない、自分が今日まで生きてきたことを振り返りたいからだ。

 日記なり、アルバムなりに、ちゃんと自分で記録していたなら、それを見ればいいのだが、そういったものがないので、林さんのエッセイを読んでいる。そして、それは、セピア色とは言っても、確かな記録である。

 興味深いのは「いよいよ安倍内閣がスタートした」という一文があり、「五十二才の総理は若々しくカッコいい」なんて書いてある。2006年だから「第1次安倍内閣」のことだが、わずか1年に満たない短命政権であったことを思い出した。面白いのはこの時、初入閣した高市早苗さんのことを「評判があまりよくない」と言って「ある種のオンナのにおいが、高市さんからはぷんぷんする」と書いている。

 なんでも当時の高市早苗さんには「女で勝負してきた」というイメージが強く、ようするに女を武器にして、政界を渡ってきたような雰囲気と言っている。

 15年後の今、まさに、その高市早苗さんが「日本初の女性総理大臣」の可能性も取り沙汰されていることを思うと、林さんは、
「ま、私は第1次安倍内閣の時から、高市さんにはそんなイメージを持っていましたけどね」
 と言うだろうか・・・・。

 「歌は世につれ世は歌につれ」と言うけど、昔ほど「大衆的な歌」「国民的ヒット曲」がなくなった今、私はこういった林真理子のエッセイこそ、その時代、時代を色濃く活写する「流行歌」ならぬ「流行文」だと言いたい。

 2021年の今から振り返ると、たかだか15年前だか、それでも、
「そうそう、あったあった」
 とうなずく出来事や、事件が沢山、この本の題材になっている。

 これが、30年、50年、100年と、もっと年を重ねたら、ゆくゆくは「徒然草」とか「枕草子」みたいな、立派な随筆になる・・・と言ったら持ち上げすぎかもしれないが、そのくらい、私は長年、林真理子のエッセイのファンである。

 これからも、もちろん、ファンです。

 なお、これは長年のファンである私からの、編集部に向けてのささやかなお願いだけど、書籍化・文庫化される際に文頭もしくは文末に「20○○年○月○日号」と、掲載時の年月日を入れてもらえると、時間が経過して読んでも、当時の時勢がわかりやすいと思う。だめかしら?


なわとび千夜一夜 (文春文庫)

週刊文春の林真理子の連載とは?

 文藝春秋社が発行する週刊誌「週刊文春」の、1983年8月4日号から続く林真理子さんの連載エッセイは、「今宵ひとりよがり」、「今夜も思い出し笑い」、「マリコの絵日記」と変遷を経て、現在は「夜ふけのなわとび」として連載継続中。

 2020年10月22日号で1669回を迎え「同一雑誌におけるエッセイの最多掲載回数」(“Most unique essays published in the same magazine by an individual”)としてギネス世界記録™にも公式認定。

 これまで34冊が文庫化され、文庫累計は426万部である。

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