有吉佐和子「悪女について」富小路公子のモデルとは?

当ページのリンクには広告が含まれています。

 NHKで放送された田中みな実主演のドラマ「悪女について」の原作、有吉佐和子の小説「悪女について」に関する情報。

 「悪女について」はフィクションということになっているけど、映像化されるたびに、
「モデルになっている女性がいるのか?」
 が話題に。

 「昭和の悪女」と言えば三越事件の「竹久みち」や、巨額詐欺事件の「尾上縫(おのうえぬい)」を思い出すが、いずれも有吉佐和子の「悪女について」が発表された1978年よりあとの事件。

 「悪女についてのモデルは鈴木その子」という情報もあったけど、これもなんか違う。1978年当時の鈴木その子さんは、料理研究家として駆け出しで、そこまで有名ではなかったはず。

 野村沙知代説もあったけど、同じく1978年ころの野村沙知代はまだ大人しいものだった、と思う。

 となると、「悪女について」にモデルはいるのか?

あわせて読みたい
松本清張「天城越え」は実際の事件(実話)が元になっていた NHK BSで放送される特集ドラマ「天城越え」の原作となった、作家・松本清張の「天城越え」と、小説の元となった、実際にあった事件「天城峠に於ける土工殺し事件」に関する資料の情報。
目次

有吉佐和子の小説「悪女について」富小路公子のモデルは誰?

 作家・有吉佐和子が1978年に雑誌「週刊朝日」で連載した小説「悪女について」。
 当時は小説連載と同時に、テレビの連続ドラマとしても放映されるという、今で言うところの「メディアミックス」の手法をとった作品だった。

「誰がモデルになっているのかしら?」
 という話題は当時からあったと思う。

 私は最初、その2年前に明るみに出た「ロッキード事件」を思い出し、主人公の富小路公子のモデルは田中角栄で、今太閤、コンピュータ付きブルドーザーと呼ばれた田中角栄を女性化して描いたのかな・・・と思ったが、そうではなかった。

 では、ロッキード事件で「蜂の一刺し」と話題になった女性・榎本三恵子かなとも思ったけど、これもおおやけになったのは80年代になってからなので、小説よりあとの出来事だ。

有吉佐和子「悪女について」の興味深い情報

 「悪女について」のモデルは誰なのか、どうしても知りたくて調べていたら、過去に興味深いツイートがあった。

 この方の情報によると「鳥尾夫人」こと、鳥尾鶴代(とりお つるよ)がモデルだと・・・・。

 鳥尾鶴代Wikipediaを見ると、どこにも「悪女について」のモデルとなった的なことは書いてないが、
「GHQ民政局次長チャールズ・ケーディスと知り合い、不倫関係に陥る」
 という興味深い経歴が。

 そこで調べたら「文春オンライン」の『昭和事件史』にWikipediaの何倍もある長い長い、鳥尾鶴代に関する情報があった。

 記事によると鳥尾夫人は最終的に平成の時代になって、病気で亡くなられている。満79歳。
 しかし1950年の新聞で「自殺したというニュースが出たが、ご本人が現れてデマと判明」という報道があった。

 このあたりは小説家でなくても、創作意欲を掻き立てられる。

【くわしくはこちら】
👉️ 【文春オンライン】良家の子女として育った子爵夫人が踏み出した“ダブル不倫”の重い一歩

 ただし、鳥尾鶴代さんはたいへん裕福な家庭に生まれた女性だ。

 「悪女について」の富小路公子は貧しい家庭に育った設定だし、読み比べても「モデル」とは思えない。

 唯一の共通点は「スキャンダラス」というくらいか・・・。

 最初に「鳥尾鶴代がモデル」という情報を目にした時は、実はドラマを観ただけで原作を読んでいなかった。

 しかし、原作を読んでみても、ピンとこない。
 「文春オンライン」の記事や、鳥尾鶴代のWikipediaを読んでも、モデルとは思えない。

 結果的には、
「よくわらない。いや、モデルはあらゆるスキャンダラスな女性の集合体ということか」
 と思ったが、気になるのは上記のツイートの「舞台はホテルオークラの鳥尾夫人」という表現。

 「ホテルオークラ」と「鳥尾夫人」の関係性がわからない。
 誰か別の人物との間違いか?「舞台」という言葉の意味も謎。

 そこでわかってきたのは、一代で財を築いた「ホテルオークラ」の大倉財閥の設立者・大倉喜八郎と、戦後のスキャンダルの象徴のような「鳥尾夫人」とを取り混ぜた人物・・・・ということかもしれない。

 ただ大倉喜八郎も農民出身ではあるものの、高い身分であったとのこと。
 大倉喜八郎の実業家としての成長を、主人公の富小路公子に重ねたのかもしれない。

小説のモデルとプライバシーの侵害における裁判

 ここで思い出したのが三島由紀夫の「宴のあと 裁判」。

 三島由紀夫が書いた「宴のあと」という小説。
「モデルは、あの◯◯という人」
 と、出版当時はすぐにモデルがわかる作品であり、そのモデルとなった人物から「プライバシーの侵害」として、三島由紀夫と出版元の新潮社が訴えられた。

 「悪女について」が世に出る17年も前、1961年の出来事なので、当然、「宴のあと 裁判」以降は、いくら小説やフィクションだとしても、モデルとなる人物が特定できるような書き方はされなくなった。

 明らかにモデルとなる人物がわかる場合は、例えば宮尾登美子の「きのね」や林真理子の「アッコちゃんの時代」などは、主人公が魅力的に描かれいる。
 間違っても「悪女について」のような、不穏で、スキャンダラスな人物としては描かれない。

 「アッコちゃんの時代」の主人公は若干、スキャンダラスな要素もあるけど、これは作家自身が本人にインタビューした上で書いているので、プライバシーの侵害にはならないだろう。

 逆に「きのね」は、「裁判沙汰になりかけた」という噂もある。
 それくらい、わかりやすい人物をモデルにして小説を書くということは、リクスが高い。

 だから「悪女について」も、もしモデルがいたとしても、今で言う「特定」などできないように、ぼやかして書かれている。というか、正しくは「モデルはいない」のではないか。
 あらゆる「悪女的」な女性のエピソードを組み合わせて、富小路公子という主人公を設定した。

 そういうことに長けた作家だったから、有吉佐和子は一時代を築いたのだと思う。

1970年代は「悪女」ブーム?

 「悪女」全般に関して調べていたら、小池真理子の「知的悪女のすすめ」を思い出した。
 林真理子がエッセイで、ずいぶん悪口を言ってた本だ。
 いつ頃出版された本だったか・・・と調べたら、「悪女について」と同じ1978年だった。

 さらに昭和の代表的な「悪女が主人公の小説」のひとつに、松本清張の「黒革の手帖」がある。
 これも1978年に、週刊新潮に連載が開始されている。

 1978年に、何があった?

 じゃあ中島みゆきの「悪女」はいつ?これは1981年の歌。
 愛人バンクの「夕ぐれ族」の筒見待子の事件は?これは1982年。
 若い女性の銀行員が、何億円も横領した事件があった。あれは?1981年の三和銀行オンライン詐欺事件。

 ただ、虚実おりまぜて、1970年代から80年代にかけて、女性の社会進出が促進されると同時に世の「悪女」も堰を切ったように世に放たれたらしい。

 さらに70年代の「悪女」を掘り下げていくと、手塚治虫が書いた「人間昆虫記」という漫画に行き着いた。1970年から71年にかけて連載された作品で、「悪女について」にとても似ている。

 主人公の十村十枝子(本名、臼場かげり)が芥川賞を受賞する場面から物語は始まるが、同時に同姓同名という設定の臼場かげりが自殺する。
 主人公が最初に投身自殺するところから遡る「悪女について」と何となく似通っている。

 この時期、手塚治虫自身はスランプだったそうで、主人公の臼場かげりには手塚治虫自身が投影されているのではないか・・・と言われている。

有吉佐和子「悪女について」に似てる小説

 有島武郎の代表作ともいわれる「或る女(あるおんな)」は、明治時代、アメリカに留学中だった日本男性と結婚するために船旅をしていて、その船の事務長で妻子もある男性と恋に落ち、そのまま日本に帰ってしまった実在の女性・佐々城信子(ささきのぶこ)がモデルの小説。

 佐々城信子は、作家・国木田独歩の最初の妻でもあった。
 当時としてはこの出来事も、かなりの不倫スキャンダルで、「報知新聞」に連載された。

 「悪女」と書いて「わる」と読むコミック。
 石田ゆり子さんの妹、石田ひかりさん主演でドラマ化された。
 それほど悪女というわけでもなく、どちらかというと「頑張りやさん」タイプの女性。

 男を手玉にとって出世していく女性の物語としては「金字塔」。つい最近も林真理子さんの超訳版が出て話題となった「風と共に去りぬ」。
 有吉佐和子もきっと、どこかで「風と共に去りぬ」の主人公スカーレット・オハラを意識して、「悪女について」を書いたという気が私はする。

 21世紀になってから「黒人差別」などの理由から、「風と共に去りぬ」の評価は急降下している。
 作者マーガレット・ミッチェルに差別の意識はないと言いたいけど、やはり「無意識に差別している」部分があることは否めない。

 しかし、男を次々と魅了して、フラレた当てつけに、好きでもない男からの求婚にあっさり承諾し、その夫が戦死すると、お金のために妹の婚約者を色仕掛で自分の夫にし、その夫も亡くなると、最後はお金目当てで「大嫌い」だった男とも結婚する・・・という、破天荒だけどエネルギッシュで、情熱的で、打たれ強い主人公は、フィクションだけど「悪女の中の悪女」という気がする。悪女すぎて、もはや爽快という・・・

 新訳や超訳など様々な日本語訳バージョンがあるけど、私は「お嬢様、そんなこと言いましねえだよ」などの表現がある大久保康雄翻訳の版が好き。

 あと、読んだけどあまり思い出せないシドニーシェルダンの「ゲームの達人」。確か商売上手な女性が主人公だったような・・・・

 それから、悪女というわけではないけど、学歴ない、コネない、実績もない秘書の女性社員が、非常手段を使って出世する映画「ワーキング・ガール」も入れておきたい。
 おそらく、人生で私が一番、何度も観た映画。
 ビジネスのアイデアを女性上司に盗まれたことに気づいた秘書の女性「テス」が、詐欺ぎりぎりの嘘をついて、汚い手を使う女性に復讐する話。
 テス役のメラニー・グリフィスもいいけど、意地悪な上司役のシガニー・ウィーバーが秀逸。
 ラストはいかにもアメリカ映画的なハッピーエンドだから、何度観ても爽快。


PVアクセスランキング にほんブログ村

  • URLをコピーしました!
目次