1976年(昭和51年)に公開された角川映画版「犬神家の一族」の情報です。
何度も映画化、テレビドラマ化されている、横溝正史の長編推理小説「犬神家の一族」。
金田一耕助ファイル5 犬神家の一族 (角川文庫)
最初の映画化は1954年の「犬神家の謎 悪魔は踊る」ですが、映画が大ヒットしたのは、石坂浩二が金田一耕助を演じた2度目の映画化1976年公開の角川映画バージョンです。
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公開から2年後の1978年にテレビ初放送され、およそ50年近くたった現代でも、繰り返しテレビ放送されているのも角川映画版の「犬神家の一族」です。
ただ、「犬神家の一族」のストーリーに関して言うと、映画を観ても、テレビドラマを観ても、わかりづらいなあ・・・と。
「犬神家の一族」のストーリーがわかりづらい・・・
映画「犬神家の一族」を観ても、子どもの頃(公開当時の70年代)は正直、ストーリーはさっぱりわからなくて、ショッキングなシーンだけ印象に残ってました。大人になって、改めてちゃんとストーリーを理解しようと思いながら見ても、やっぱりよくわならない・・・。
次々と殺人事件がおこり、金田一耕助がそれを解決するあらすじはわかるとして、最後まで観てもストーリーの全体像が一度では理解できませんでした。
登場人物が多い上に、名前が「すけきよ」「すけたけ」「すけとも」と、誰も「すけ」がついて紛らわしい。それぞれの母を演じている女優さんも映画では皆、同じに見えて区別できない。さらに弁護士や刑事も誰が誰だか・・・
そこで1976年公開の角川映画バージョンの「犬神家の一族」の内容を、相関図を交えて解説します。
1976年公開の角川映画版「犬神家の一族」相関図
まずは相関図から。
他にも警察署長やホテルの女中など、登場人物は沢山いますが、最小限にしました。
タイトルを付けるなら「犬神佐兵衛とその子・孫・養女たち」でしょうか。文字通り「犬神家の一族」のみを中心に相関図にしました。
犬神佐兵衛の3人の娘・松子、竹子、梅子は、それぞれ母親が違います。犬神佐兵衛は生涯、妻を娶らず、いわゆる3人の「妾」それぞれに、松・竹・梅の娘を一人ずつ産ませたことになっています。
原作では故人となっている松子の年老いた母が、映画版では小遣いを無心する場面で登場しています。
松子の夫は故人。松子は未亡人となっています。その松子の息子が「佐清(すけきよ)」。
松子は一時は「佐清まで戦死してしまったら、私には夫も子もいない」と嘆いていましたが、佐清は戦地から復員してきたのでした。
次女・竹子、三女・梅子には夫がおり、それぞれが犬神佐兵衛の関連会社の社長。
いずれも婿養子となって、犬神姓を名乗っています。
次女・竹子の娘・小夜子は、三女・梅子の息子・佐智と秘密裏に交際しており、すでにお腹に子どももいます。母親同士が異母姉妹なので、ふたりは「いとこ同士」ですが、結婚を望んでいます。
キーパーソンである「絶世の美女」野々宮珠世は、亡くなった犬神佐兵衛の恩人である那須神社の神官・野々宮大弐(だいに)の娘の子。つまり野々宮大弐の孫です。
身寄りのなかった犬神佐兵衛を拾って、我が子同然に育ててくれたのが野々宮大弐(だいに)でした。
実は大弐は男色家で、妻の春世と男女の関係はありませんでした。
佐兵衛は大弐との間に衆道の契り(男色関係)があったりしますが、やがて犬神佐兵衛は、大弐の妻である春世と男女の関係になり、大弐はそれを黙認します。
そうして大弐の妻・春世から生まれた子が祝子(のりこ)でした。祝子はつまり、生物学的には犬神佐兵衛と大弐の妻・春世の間にできた子ですが、大弐の実子として出生の届けを出されます。
祝子は映画には出てきません。「ナレ死」ならぬ「ナレ誕」とでも言いましょうか、過去を語る時に祝子の名前が出てくるくるだけです。
珠世は祝子の娘なので、生物学的には佐兵衛の孫になります。
物語が始まった時点ではすでに、神官の大弐、妻の春世、娘の祝子は故人となっており、珠世は犬神佐兵衛の養女として犬神家の屋敷に暮らしています。
また、犬神家には「斧(よき)・琴(こと)・菊(きく)」の3つの家宝があります。元々は野々宮大弐が神社の宝として作った黄金製の宝物(ほうもつ)でした。
映画の中盤に回想シーンで出てくるのは、犬神佐兵衛の死からさかのぼること数十年前に、佐兵衛が50歳を過ぎて作った新しい愛人・青沼菊乃(あおぬまきくの)でした。
青沼菊乃は佐兵衛の子として息子・静馬(しずま)を生みます。
それまで娘しかいなかった佐兵衛は、男子誕生を喜んで家宝である黄金製の宝物「斧(よき)・琴(こと)・菊(きく)」を、全て青沼菊乃に与えてしまいます。
犬神家の家宝を若い愛人である青沼菊乃に与えただけでなく、ゆくゆくは財産の相続権まであると知った松子、竹子、梅子は激怒し、三人で青沼菊乃の元へ押し入って家宝を奪い返した上、青沼菊乃・静馬親子に暴行して、二人を町から追い出しました。
映画では、その後、青沼菊乃は亡くなった事になっています。そして、息子の静馬は徴兵されて戦地へ行き、その行方は・・・
ちなみに原作の小説では、青沼菊乃はまだ生きていて、松子が琴を習っている目の不自由な女性こそが、青沼菊乃の現在の正体でした。映画では、岸田今日子が演じる琴の師匠・宮川香琴は出てきますが、青沼菊乃とは別人という設定になっています。
1976年の角川映画版「犬神家の一族」配役
配役(演じている俳優)は以下のとおり。
金田一耕助:石坂浩二
犬神佐兵衛:三國連太郎
犬神松子:高峰三枝子
犬神梅子:草笛光子
犬神竹子:三条美紀
犬神佐武:地井武男
犬神佐智:川口恒
野々宮珠世:島田陽子
犬神小夜子:川口晶
猿蔵:寺田稔
佐清(すけきよ)はあおい輝彦さんです。
かなりのネタバレになってしまうので、スケキヨ役に関して言及するのはなかなか難しい。
ストーリーの中でも大きなミステリーは「スケキヨは、本当に本人なのか?」です。親族の中でも「あれはスケキヨではないのではないか?」という話が出て、覆面を取らせたり、手形を照合したり。
次々起こる殺人事件と並行して、スケキヨは本人なのか、別人なのかのストーリーが展開。
私はこのスケキヨ役はあおい輝彦さんの他に、もうひとりの演者が存在するのかと思っていましたが、あおい輝彦さんが全て演じておられたそうです。
つまりネタバレをさけて言うと、あおい輝彦さんはスケキヨ役と、もうひとりの人物の一人二役で演じておられた事になります。
金田一耕助を演じるのは石坂浩二。
松子夫人は高峰三枝子。
映画公開の数年後、上原謙と共演した旧国鉄のフルムーンのポスターでは、その妖艶さが話題になりました。
「絶世の美女」でキーパーソンの珠世は島田陽子。
こののち1980年にアメリカのテレビドラマ『将軍 SHŌGUN』でヒロイン・まり子役を演じ、ゴールデングローブ賞の主演女優賞を受賞して「国際女優」と話題になりますが、80年代後半になると樹木希林さんの夫である内田裕也さんとの不倫が大々的に報じられスキャンダルとなります。
那須ホテルの女中は、まだ初々しい坂口良子。
こののち1980年にドラマ「池中玄太80キロ」でブレイクし人気女優になるが、57歳でガンにより死去。娘の坂口杏里は何かとお騒がせな存在に。
次女・竹子の息子で最初に殺される佐武(すけたけ)は地井武男。
こののち「太陽にほえろ!」や「北の国から」で活躍。「ちい散歩」も人気番組に。70歳で心臓疾患のため死去。
犬神佐兵衛は「釣りバカ日誌」のスーさんでおなじみの三國連太郎。
1923年生まれの三國連太郎は、実際には映画撮影当時まだ50代。佐兵衛の臨終の場面や遺影は特殊メイクによるものでした。
「猿蔵:寺田稔」に関しては、私は一瞬「え?あの『ラピュタ』のムスカ大佐役の?」と勘違いしました。ムスカ大佐の声は寺田農(てらだ みのり)さん。猿蔵役は劇団四季のミュージカルなどに出演されていた寺田稔(てらだ みのる)さん。名前が似ている別人でした。
角川映画版「犬神家の一族」のザックリしたあらすじ
あらすじを簡単に説明します。
ここでは原作とは異なる、1976年(昭和51年)に公開された角川映画版のあらすじを紹介します。
23歳で製薬会社を興し、旧軍部を相手にケシの栽培と麻薬の販売で財を成した犬神佐兵衛が亡くなったことで起こる、遺産相続の話です。一個人の遺言状が惨劇を引き起こす物語とも言われています。
遺産相続に端を発したごたごたで、次々と殺人事件が勃発。数々の難事件を解決した私立探偵の金田一耕助が、警察も解決できなかった事件を解決に導きます。
ラストは犯人の特定と、事件の全容の謎解きです。
物語の舞台となるのは、長野県の那須湖畔にある那須市(湖も市も架空の名称)。時代設定は「昭和22年2月(原作では昭和二十×年)」となっています。
裸一貫から製薬業を興し(原作では製糸業)、一代で財を成した犬神佐兵衛(いぬがみさへえ)が他界します。
佐兵衛は生涯、正妻を持たなかった人で、犬神家には母親の違う3人の娘「松子、竹子、梅子」がいます。
佐兵衛の遺言状は、一族の関係者全員が揃った場で発表されることになり、まだ戦地から復員していない松子のひとり息子「佐清(すけきよ)」の帰りを待つことになりました。
私立探偵の金田一耕助は、犬神家の顧問弁護士・古舘(ふるだて)の弁護士事務所で働く若林から「近く、犬神家の一族に容易ならぬ事態が勃発する」という手紙を受け取り、東京から那須市にやって来ます。
那須ホテルにて若林と落ち合う予定だった金田一ですが、若林はその直前に何者かによって毒殺されます。犬神家の遺産相続に立ち会うこととなった金田一は、早くも事件に巻き込まれていくのでした。
やがて、佐清(すけきよ)が博多に復員したと連絡があり、松子が博多に向かいます。東京や神戸から那須市の犬神家本宅へ、一族の関係者が集まり、佐清と松子の帰りを待ちますが、15日経っても二人は戻りません。
ようやく博多から、犬神家本宅へ帰ってきた松子と佐清。現れた佐清のその姿は、戦争で大怪我を負い、顔に仮面を被っていました。一族は佐清本人かどうか疑いますが、松子が「母の私が保証する」と断言します。
佐兵衛の遺言状は、古館弁護士により犬神家の関係者一同に公開されます。
その内容は、身寄りがなくて犬神家に引き取られ犬神家の本宅で暮らしている「野々宮珠世(ののみや たまよ)」が、佐兵衛の3人の孫息子「佐清、佐武、佐智(すけきよ、すけたけ、すけとも)」の誰か1人を配偶者に選ぶことを条件に、全相続権を野々宮珠世に与えるというものでした。
さらに、珠世が相続権を失うか死んだ場合は、財産は5等分され、3人の孫息子は各5分の1ずつを相続し、残り5分の2は佐兵衛のかつての愛人(すでに犬神家の本宅にはいない)青沼菊乃の息子の青沼静馬(しずま)が相続するというものでした。
松子、竹子、梅子は「血縁じゃない娘(珠世のこと)が財産を持っていっちゃうわけ?」と納得いきません。夫や孫たちも「自分は無視されている」と嘆きます。さらに何年も前に追い出した青沼静馬に相続権があることも不愉快です。
この遺言状の発表を期に、犬神家では次々と殺人事件がおこります。
角川映画版「犬神家の一族」のポイント
物語のポイントの要点をまとめます。
・白いゴムマスクを被っている佐清は本当に佐清本人なのか?
・近所の安宿に宿泊している、もう一人の復員兵姿の男は誰なのか?
・それぞれの殺人事件は誰が犯人か?
・次は誰が殺されるのか?
・弁護士事務所の従業員・若林を毒殺したのは誰か?
・珠世と結婚して犬神家の全財産を相続できるのは誰か?
・全財産を相続する珠世とは何者なのか?
中でも「佐清は本当に本人か?」に関しては、母・松子の見解や、戦前に佐清を慕っていた珠世の違和感や、周りの親戚の疑心暗鬼などがつぎつぎと重なり、
「顔は大怪我で変わってしまってわからないから、指紋で本人確認しよう」
という展開になります。
もちろん佐清本人は「僕は佐清だよ」と言っていますが、どうも違和感がある珠世。母の松子もいぶかしんでいる。佐清は誰なのか?本当の佐清はどこに?という点が最後までストーリーを引っ張る「謎」になります。
あえてネタバレ・結末は書きません。
正直、私は「バッドエンド」だと思います。
ある種の希望を残した結末にはなりますが、人が殺されすぎて、後味が決していいとはいえない終わり方です。
「犬神家の一族」には沢山のリメイクがある
バッドエンドなのにこんなに何年も愛され、繰り返しテレビ放送され、ドラマでも何度もリメイクされているのは、「佐清の白いマスク」や「湖から突き出た二本の足」など、ビジュアルがインパクトあるからではないでしょうか。
私はリメイクされたドラマ版も何度も見ました。金田一耕助を古谷一行さんが演じた1977年のTBSドラマ「横溝正史シリーズ」や、加藤シゲアキ版、吉岡秀隆版などが私の見た「犬神家の一族」のドラマです。
この他にも金田一耕助を中井貴一や、片岡鶴太郎、稲垣吾郎などが演じたドラマバージョンがあります。
一番多くテレビ放送されているのはやはり石坂浩二版の角川映画バージョンだと思います。
個人的には角川映画より、古谷一行さんの連続ドラマの「犬神家の一族」が好き。私の中で「金田一耕助」といえば、古谷一行さんが一番しっくりくる俳優さんです。石坂浩二さんは映画公開当時から現在に至るまで、どうしても「クリーンすぎない?清潔感がありすぎて、金田一耕助っぽくない」と思っています。
古谷一行さんに清潔感がないというわけではないけど・・・
私は石坂浩二よりずっとワイルドで野性味がある古谷一行さんの金田一耕助が一番好き。
余談ですが、「犬神家の一族」ではないけど、「八つ墓村」で渥美清さんが金田一耕助を演じた時は、いちばん違和感がありましたね。
「犬神家の一族」の原作小説と表紙イラスト
映画「犬神家の一族」の原作は、横溝正史(よこみぞせいし)の同名推理小説です。
今回ちょっと驚いたのは、Amazonの電子書籍読み放題サービスで「犬神家の一族」が読み放題対象になっていたこと。
映画やドラマは何度も見ている私ですが、原作を読んだことはありません。Kindle Unlimited会員なので、追加料金無料の読み放題で読めるならこの機会に読んでみたいと思いました。
原作と映画、ドラマ版ではかなりの違いがあります。特に、娘たちが追い出した青沼菊乃が、実は松子のお琴の師匠として屋敷に出入りしていたという展開は、原作ではどうなっているのか知りたいです。
ちょっと話が横道にそれますが、非常にカルトな存在の映画監督・渡辺文樹さんという方おられます。
私は街で見かけた渡辺文樹映画のポスターが気になって、上映会に行ったこともあるし、その会場で御本人(ふつうに切符のもぎりをされてました)にもお会いしたことがあるのですが、「犬神家の一族」の表紙のイラストが、渡辺文樹テイストなんですよね・・・。
正しくは渡辺文樹のポスターが、「犬神家の一族」の表紙テイストなのか・・・
「犬神家の一族」の表紙のイラストは、「横溝正史の小説の表紙画を一手に手掛けた」と言われているイラストレーター杉本一文(すぎもと いちぶん)さんの絵です。
杉本一文『装』画集[新装版]〜横溝正史ほか、装画作品集成 (TH ART SERIES)