松本清張『地方紙を買う女』原作ネタバレ

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 松本清張さんの推理小説「地方紙を買う女」をご紹介します。

 推理小説のネタバレとなりますので、
「結末を知りたくない」
 という方は、お読みにならないでください。

 何度もドラマ化、映画化されており、ストーリーは各作品でアレンジされています。過去には広末涼子さんが出演する「地方紙を買う女」も放送されました。

 原作は1957年に書かれており、戦争とも無関係ではないストーリーですが、多くの映像作品では戦争とは無関係なストーリーとなっており、令和の今となっては「戦後」や「戦地から復員」などあまりに時代にそぐわないため、主人公の殺害動機が「現代風の理由」に変更されているのです。
★6/25再放送「松本清張 霧の旗」のあらすじは こちら

目次

松本清張没後30年

 その前に、このブログを書こうと思ったきっかけについてお話しいたしましょう。

 2022年3月27日の夜、過去にわたくしが長々と書いた『米倉涼子版松本清張ドラマ「疑惑」ネタバレと映画版・原作版との違い』へのアクセスが急増したことから、
「どこかで再放送でもしているのかな?」
 と思って調べたところ、BSで田村正和版の「疑惑」が再放送されておりました。

 なんでも、2022年は「松本清張の没後30年にあたる」年だそうで、BS朝日では3月末に「テレビ朝日がこれまでにドラマ化してきた、松本清張原作の数々の作品を一挙放送」とのこと。

 「疑惑」は私も好きな作品で、過去に映画・ドラマと様々なバージョンを何度も観てきたので、田村正和版の「疑惑」を改めて視聴するまでもなかったのですが、なんとなくダラダラと観てしまい、そのあと続けて放送された、田村正和版の「地方紙を買う女(広末涼子出演)」も続けて観ました。

 松本清張の「点と線」や「ゼロの焦点」「砂の器」「鬼畜」など、代表作は原作も読み、映画・ドラマも沢山観てきたつもりです。しかし「9回も映像化された」という「地方紙を買う女」はこの時初めて観ました。

 ドラマを観始めてすぐに、
「何か変なストーリーだな」
 と違和感が半端なかったので(広末涼子が演じる大臣秘書の妻が現役の銀座ホステスとか・・・)原作のネタバレ記事を検索しました。

 わたくしの探し方が悪いのかもしれませんが、映画やドラマのあらすじを紹介したサイトはあるものの、原作に関する紹介記事はなかったので、早速電子書籍を購入しました。

 その一部をご紹介します。

小説「地方紙を買う女」のあらすじ

 原作の「地方紙を買う女」を電子書籍で早速買いました。

 表題にはありませんが、こちらの短編集に収録されています。


顔・白い闇 (角川文庫)

 結末はドラマとは似ても似つかぬものでした。

 また、トリックの一部も、原作とは大きく違いました(田村正和版の「地方紙を買う女」に限っての話ですが)。

 ここからは、解説もまじえて、あらすじのご紹介をします。

 まず、原作が書かれたのは1957年であり、1945年の「太平洋戦争の終戦」からわずか「12年」しか経っていない時期であることを念頭に置いてください。

 主人公の潮田芳子は、東京の千歳烏山に住み、渋谷のバーで女給(今で言うホステス)をしながら暮らしています。

 そんな芳子が、K市で発行されている地方紙『甲信新聞』に購読を申し込む。

 原作には『東京から準急でも4時間くらいかかるK市』とあり、富士山や甲斐駒ヶ岳の描写もあることから、このK市は「山梨県甲府市」を連想しますが、原作には明記されていません。おそらく、あとあと青木ヶ原樹海や自殺の名所のような描写も出てくることから、今で言う「風評被害」のようなものに配慮して、場所を特定しない表現にしたのだと思われます。

 芳子は現金書留で新聞代金を『甲信新聞』に送り「直接購読」を申し込む。

 インターネットが普及した現在では、地方のニュースや出来事も瞬時にわかりますが、原作が書かれた1957年には「全国紙に載らないような、地方の小さな事件や出来事を知るには、その地元の地方紙(地方新聞)を郵送してもらって読む」しかなかったことも考慮しなくてはストーリーが理解できません。

 芳子が現金書留に同封した「貴紙連載中の「野盗伝奇」という小説が面白そうですから・・・」という手紙は、新聞社の者から作者の小説家・杉本隆治に伝えられ、杉本はわざわざ芳子あてに礼状を送ります。

 しばらくして芳子は、翌月分の新聞代金を請求されたことに反応して、新聞社あてに「小説がつまらなくなりました」という理由で、これ以上の購読の意志がないことをハガキで伝えます。

 作者の杉本は、新聞社から回送されてきた芳子のハガキを読んで、不愉快になると同時に、違和感をおぼえます。そもそも芳子は小説を最初の回(第1回)からは読もうとはしていなかったし、そもそも東京在住の芳子がなぜ、K市の地方紙に連載中の小説の存在を知っているのかも不思議でした。

 芳子に違和感と不信感を抱いた杉本は、ファイルされている『甲信新聞』の過去記事を調べ始めます。

 東京の某デパートの従業員男女の心中死体の記事を見つけた杉本は、
「東京とY県を結ぶ線は、これより他は無い」
 と確信し、芳子の本当の目的は自分の連載小説ではなく、この記事見たさに新聞を取り寄せたに違いないと思うに至ります。

 杉本は私立探偵に依頼して、芳子の身の上やバーでの人間関係を調べさせます。

 やがて杉本は探偵から、心中した男女の男の方、某デパートの警備員だった庄田が、芳子の勤めるバーで客として何度も目撃されており、女給の芳子とは「情人関係」であったと報告を受けます。杉本は早速、芳子の勤める渋谷のバーに出向き、芳子を指名して、自分が「野盗伝奇」の作者だと明かしたうえで、探りを入れ始めます。

 杉本があの手この手で芳子にカマをかけると、芳子は自分の犯行が露見するのを恐れ、同じ手口で杉本を殺害しようと企み始めます。

 しかし、そこは杉本も当然警戒しており、芳子の計画にハマったふりをして、直前で危機を回避します。

原作『地方紙を買う女』結末のネタバレ

 さて、ここからは推理小説の結末のネタバレになります。原作をまだ読んでないので、結末は知りたくないという方はご注意ください。

 田村正和版のドラマでは、芳子が罪を認めて自首するというストーリーでした。

 原作では全く違う、悲劇的なラストです。芳子は最後に自ら青酸カリ入のジュースを飲んで、自殺したことになっています。

 といっても原作にその場面の描写はなく、ただ、最後のページで作家・杉本の元に、芳子から遺書が届いたことになっており、遺書の最後に、「毒はジュースに入っていた」と告白があり、「これから、それをわたしが飲むところです・・・」という言葉で終わっています。

 芳子が二人を心中に見せかけて殺害したのは、ようやく戦地から復員する夫に、警備員・庄田との関係を知られたくなかったから。そもそも芳子が警備員・庄田と関係を持ったのは、女給の衣装を買うために行ったデパートで、庄田に呼び止められ、万引きを疑われたからです。

 原作では、ドレスを買ったあと、レースの手袋を一対買った。ところがデパートの警備員・庄田に呼び止められて、荷物を改めると、レースの手袋が二対出てきた。一つはデパートの包装があり買物検印(今風に言うとレシート・・・でしょうか)もある。しかしもう一つはそのまま荷物に入ってた。

 レースの手袋は芳子が万引きしたわけではなく、偶然売り場でカバンに落ちてきて、入ってしまったもの・・・という風に原作では説明があり、万引きしたわけでもないのに、その時から庄田に万引女の疑いをかけられ、執拗につきまとわれ、結局、関係を持ってしまい、夫の復員の連絡を受けて「庄田を殺害しなくては」と思うに至ったという展開です。

 最初にも書いたとおり、原作が発表された1957年は、終戦からわずか12年しか経っていない時代です。

 作家の林真理子さんの実父は、徴兵されたまま戦後、中国共産党の共産主義に傾倒し、無事だという便りだけが届いたまま、10年間日本には帰ってこなかったそうです。

 何が言いたいかと言うと、実際に、戦争が終わっても10年くらいは日本の土地を踏まなかった人(復員が遅くなった人)というのは、確かにいたのだということ。

 「地方紙を買う女」の最大の悲劇も、芳子の夫が満州に行ったきり、何年も帰ってこない点だと思います。

 「社会派」と言われる松本清張ですから、「まだ戦後は終わっていないんだ」ということを、この作品で訴えたかったのではないか、とも思います。

 奇しくも、この作品が書かれた1957年の前年、1956年度の『経済白書』の序文に書かれた有名な一節が、
『もはや戦後ではない』
 でした。

 松本清張の反骨精神に、この言葉が火を着けたのかもしれません。作者は反語的に「いや、まだ戦後なんだ」と言いたくて、この小説を書いたのではないでしょうか。

 ビビアン・リー主演の映画「哀愁」も、戦地に行った夫(婚約者)を待っている間に、女性の身の上に起こる悲劇と、悲しい結末を描いています。ちょっとそれにも似ているかな?と思いました。


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田村正和版ドラマ「地方紙を買う女」の感想(広末涼子出演)

 田村正和版のドラマでは、芳子(広末涼子)の夫が「代議士の秘書」に置き換えられていましたが、それだと全く別の話になって、全体のイメージも変わってしまいました。

 時代設定を現代に変えたことにより、「戦地から帰ってくる夫を待ちながら、女給をして暮らしている女」という設定には無理が生じました。そこで苦肉の策で「代議士秘書の妻」にしたのはわかりますが、それだと主人公の「戦地に行った夫を待っている」という健気さや、「だが、女が一人で生きていくのは厳しく、仕方なしに女給をやっている」というどこか物悲しい背景がなくなってしまいます。

 ドラマの中では、芳子の夫が、小説家・杉本に対して、
「妻がホステスの仕事をやっているのは、ストレス解消のため」
 と短く伝える場面があります。原作の「生活ために、やむにやまれず」という大事な部分が抜け落ちて、単なる娯楽や趣味でやっていることになると、「まだ戦後は終わっていないんだ」という作者の一番言いたかったことも、ぼやけてしまいました。

 「男女二人を同時に殺害し、心中に見せかけた」という殺害のトリックだけが残され、その背景にある社会的な悲劇性は全部排除されて、単なる娯楽作品にしてしまうなら、ドラマ化する意味すらないのでは?という気がします。

 松本清張の小説はどれも、トリックや結末よりも、そこに至るまでの悲劇性や、やむにやまれぬ事情の部分こそが読み応えがあるのに、なんとも残念な結果でした。

なおドラマはアマゾンプライムビデオで、動画配信があります(有料)。

▼動画はこちら
松本清張 二夜連続ドラマスペシャル 第一夜 地方紙を買う女~作家・杉本隆治の推理

 なお最初に映画化された作品「危険な女」はアマゾンプライム会員なら追加料金なしで視聴できます。

 1959年に公開された作品なので、原作が発表されてからわずか2年後の作品です。結末もほぼ原作どおり、時代背景も原作どおりということで、原作に最も忠実な作品ではないでしょうか。55分と短いため、コンパクトにまとまっています。

 主演の芳子役は、ドラマ「ムー一族」で「うさぎ屋」のおかみさんなどを演じていた、今となっては「おかみさん」「おかあさん」の印象が強い(ワタシだけかもしれませんが)、若かりし頃の渡辺美佐子さんです。

▼動画はこちら
危険な女

内田有紀版・地方紙を買う女

 BS日テレで2023年6月18日に放送された、内田有紀版の「地方紙を買う女」も観ました。

 ネタバレになりますが、内田有紀版では、さらにストーリーがアレンジされ、作家・杉本(高嶋政伸)が芳子(内田有紀)を追い詰めるストーリーは原作どおりですが、最後に作家・杉本まで毒殺されてしまいます。

 警備員・庄田役を演じているのは千原ジュニアさん。2007年1月30日に日本テレビの「火曜ドラマゴールド」で放送されたものの再放送でした。

 もうここまでくると、原作とはまったくの別物。芳子はただのシリアルキラー。庄田殺害の動機に至っては、さらに「そんなことで?」という違和感が残る消化不良なストーリーだったと思いました。

 余談ですが「地方紙を買う女」や「熱い空気(家政婦は見た)」が再放送されるたびに、500~1000件以上のアクセスがこのブログにあります。

 没後30年を過ぎても、まだまだ衰えない松本清張先生の人気っぷりに驚いています。

 それとも、松本清張の原作が各作品で「あまりにアレンジされすぎている問題」と言うべきなんでしょうか・・・・

関連情報:
 市原悦子「家政婦は見た」の原作・松本清張「熱い空気」はこちら>>>
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